ヒトラー 最期の12日間

重いよ。



鬱だ。
どうせ夜中にビデオ借りるならもっと軽いのにすればよかったと、はげしく反省中。


全体としてドキュメンタリー調で戦闘シーンなど合間に挟まるものの、ドラマの起伏はあまりないです。でも2時間半まったく飽きずに見れるのは、しっかりした考証による臨場感満点な映像なおかげ。


俳優さんたちもすごいです。
ヒトラーゲッベルスヒムラーゲーリング、みんな相当なそっくりさん。(ヒムラーにそっくりな人、キャスティングされたときの心中はいかばかりか…)
特にヒトラーは、独特の演説口調と身振り、侍医モレルの薬物処方による左手のふるえ、視線のふらつき、ただただすげえの一言。
さらにソ連軍が官邸に肉迫するにつれ、白髪がふえ、頬がこけ、目から生気が失われていく。だけど凶報をきき錯乱状態に陥ったときは異常な目のギラツキが…。


この映画みて思ったこと。


ドイツ人にはどうにもかなわない。


なにがかなわないって、こんな超問題作をよくぞ撮った。
この映画はあくまでドキュメンタリーじゃないのかな?作品中にはヒーローもいなければヒールもいない。主人公もいない。ただ官邸地下要塞を中心にちょっと味付けして12日間淡々とカメラを回しました、というテイスト。そして作品の最後の最後に生存者の証言映像がでてきます。


「若かったというのは言い訳にならない。目も見開いていれば気づけたのだ。」


しばしば日本とドイツの戦後処理問題で言われることだけれど、歴史をえぐりだし直視しようとする、この過剰でマゾヒスティックなまでのドイツ人の姿勢ってのは…。
戦後60年、わんさか製作された悲劇の押し売り系邦画と比べたら。ドイツ人にはどうにもかなわない。



かなわないとこもうひとつ。
ナチスドイツがなぜここまで膨張できたのか?
誰しも疑問に思うところです。ナチス党幹部には人格破綻者がほとんど。SS幹部もごろつきと表現したほうがよい人たちばっかり。日常の行政さえ危ういんじゃ?


でもこの作品を見てこの疑問の答えがひとつ分かった気がする。
ドイツ人が作り上げる官僚組織のすごさ。いちずさ。責任感。勤勉さ。
(いい意味でも悪い意味でも)ちょいとかなわない。
そんなふうに思わされる場面がチョロチョロでてきます。
地上で愚直なまでに職務に殉する兵士、地下要塞で退廃をつくすSS幹部たち。
数百メートル先にソ連兵が迫るなか、脱走市民を街灯に吊るす憲兵。銃弾が飛び交う中でも「ボルシェビキの手先」と書かれたプラカードを一緒に吊るすのを忘れない。
ヒトラーが自殺したとたん地下要塞で堂々とタバコをふかしはじめる将軍たち。(ヒトラーはタバコ嫌い)
責務と現実のはざまの狂気。


久しぶりのお勧め映画です。